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好みの話じゃなくて、好きの話

6/28(fri) 下北沢DaisyBar 「crybaby」リリースツアーアンコールワンマンライブ "CRYAMYとわたし。"

 

6月28日の朝、おばあちゃんの訃報を受けたのは遅延している電車をホームで待っているときだった。青森県の最北端に住むおばあちゃんには、最近はもう年に一度会うか会わないかなので、その知らせを聞いても実感が湧かないというのが正直なところ。10分遅れで到着した電車に乗り込むといつもよりかなり混雑していて、湿気のせいもあり私の気持ちはすぐに苛立ちへと変わった。大学生あるあるだと思うけど、遅刻が確定すると急に何もかもどうでもよくなる。学校に着いて、心なしかいつもより少し堂々と教室の扉を開けると、静まり返る室内でちらほらとこちらを向く人がいた。湿気で嫌な匂いがする。この大学は女子しかいないというのになぜこんなに異様な匂いがするんだと思うと、またイライラが増してきた。席に着いてから、バイト先の店長に葬儀のため何日と何日にバイトを休むと連絡を入れて、すぐに机に突っ伏す。諸々の感情が重なって顔を上げていられない。と、言いつつ、考えることは「今日ってライブ行っていいのかな」ということだけだった。

まあ、いいや、だいぶだいぶ悩んだ結果、これを書いているくらいなのでライブには行った。こんな私情は話すと長くなるからそのことはライブの感想とともに少しずつ書き起こしたい。世界一カッコいいバンドのカッコよさとか男らしさも言葉にして伝えないと勿体ない。セットリストはさすがに覚えていなかったのでSNSで「CRYAMY」と検索して拝見させてもらいました。

 

CRYAMY初のワンマンライブとなった「CRYAMYとわたし。」は、19時開場19時45分開演で、比較的スロースタートだった。私は午前中に学校が終わっていたので、一度家に帰ってきて、ご飯を食べて、仮眠(昼寝)をとって、シャワーを浴びる余裕まであった。結局時間がありすぎて逆にゆっくり準備してしまい、一本電車を逃してしまったけど。デイジーバーに着いたのは開場時間の10分前くらいで、もうすでにそこそこの人が集まっていた。ちょうど19時に入場が始まり、整理番号に従って私も中へ。外でドリンク代を払っていたときから聴こえていたんだけど、フロアに入ると結構な音量でバンプの天体観測が流れていて、私はバンプが大好きなので少し、いや、だいぶ気分が上がった。後ろのほうで見るか前のほうで見るか迷っていたはずだったのに、自然と足が前へ前へ動いてしまい、結局前から4列目くらいのところに位置取る。天体観測の他にも、Titleofmine、ハルジオン、ベルなど、アルバム「jupiter」の曲がしばらく流れていた。そのあとに流れた洋楽はほとんど(全部かな)知らない曲だったけど、私はずっと大音量のBGMを聴いていた。そうこうしているあいだに19時40分をすぎ、前にいた女の子がスマホをしまったので私も鞄の中に入れて、ただステージを眺める。それからしばらく、体感では約7、8分ほどで会場の電気が消えた。

 

普段より何倍も大きい拍手が鳴り響く。私の掌もなかなかいい音が出ていた。いつものSEでオオモリさんから順番に登場、と思い込んでいたんだけど、流れてきたのは久石譲のsummerだった(カワノさんのInstagram参照)。なぜか笑えてしまう、楽しい。久石譲が流れただけで楽しい。朝から決していい気分ではなかったけど、私はこの日のライブを2ヶ月前から本当にずっと楽しみにしていたのだ。その音楽に合わせてオオモリさん、フジタレイさん、タカハシさんと登場し、カワノさんを待っていると、どこからか「よろしくお願いしまーす!」という声がした。後ろから聞こえるざわめきに振り返ると、カワノさんが人混みを掻き分けて前に迫ってきていた。驚いたし、笑えたし、なんのサプライズかと思ったけど、いろんな人の手を握ったり抱き合ったりしながら前に進むカワノさんが誰よりもいい顔をしていたので、「今日は来てよかった」ともう既に思ってしまっていた。最前までたどり着いたところで、誰かに担がれながらカワノさんが柵を飛び越える。ステージに立ってギターを持ちそれを鳴らす姿は、今まで見た中で一番カッコよかった。

 

一曲目はtenだった。始まるとすぐにタカハシさんが前に出てきてフロアから伸びる手とハイタッチをしだして、私もしたかったから手を伸ばしたけど一歩間に合わず。でもその手は挙げっぱなしのまま、爆音のギターと心臓まで響くドラム、叫ぶような歌声とタカハシさんのコーラスを聴いていた。良い曲だ。良い曲すぎる。後ろから押されたり隣から押されたりと大変だったけど、お客さんもそれぞれ違う動きをしていたのが、いい意味で一体感がなくてなんとなく安心した。二曲目はsonicpopで疾走感を高めて、三曲目の普通は一気に地を這う力強さを生み出す。それに、自分でもビックリだけど、この曲で私は生まれて初めてレベルの大声でサビの最後の歌詞("見つめるような癖")を熱唱してしまった。冷静になって考えてみれば周りの人に「ほんとすみません…」という気持ちではあるけど、あの爆音の中では私がどれほど大声で歌ったってマイクを通したカワノさんの声が聞こえなくなることはないと思うから多目に見てほしい。私も誰かの何かが思いっきり頭に当たってなかなか痛かったけどそれも多目に見るから。普通の途中で、カワノさんは客席に飛び込んでみんなの上に乗りながら後ろのほうまで行き、見えなくなった頃にまた上から帰ってきた。そのあとのMCで「さっき後ろのほうまで見に行ったけど…、見に行った?けど…」と照れ臭そうに笑っていたのも印象的だった。MCは3、4曲ごとに一回のペースで挟まれていたんだけど、どこでどのMCをしたのかが少し曖昧なので、これは書きたい順番に書く。でも、このときのMCではただひたすら「ありがとうございます」と言っていた気がする。こちらこそ、だ。4/20にやったリリースパーティーと同じで、「言いたいことは先に言っちゃいます」と言ってたくさん感謝を述べていた。こんなに激しく演奏したあとにほっこりした気持ちにさせられたので、気持ちがなかなか追いつかない。そんなMCから話はまた少し変わっていき、四曲目のビネガーは「俺のゲロの味です」と言って始まったので、また気持ちが180度回った。ビネガーはずっとサウンドクラウドで聴いていたので、イントロの「ワン、ツー、スリー」がこの日も頭の中で勝手に聞こえた。良い曲だ。CRYAMYの曲にコメントをするなら、私はもれなく全てに「良い曲」と入れると思う。だって良い曲なんだもん。五曲目の正常位も六曲目のtwistedも全部全部。twistedでのタカハシさんのコーラスが本当に綺麗で大好きなので、もし再録することがあればぜひ入れてほしい。そういえば、MCでカワノさんが「チューニングするからたかしこ喋ってて」と言ってMCをタカハシさんに投げた時、彼は困ったように髪の毛をくしゃくしゃするだけで結局一言も喋らず、カワノさんに「頼むよ~」と嘆かれていて、なんだか微笑ましい光景だった。

 

八曲目はイージリー。この曲は前々日の下北沢近松で初披露だったのかな?カワノさんのサウンドクラウドの中でもとくに好きな曲だ。初めてバンドでのsonicpopや月面旅行、プラネタリウムを聴いたときもそう思ったけど、こうやってずっとカワノさんの歌声とギターだけで聴いていたものがバンドで鳴らされていると、なぜか私が嬉しい気持ちになる。「あなたが仮に不幸になったって~」の部分からのオオモリさんのドラムが好きだった。九曲目のpink、全体的には倦怠感のあるサウンドなのに、間奏でのレイさんのギターは、…なんていうんだろう、こういうときにギターやバンドに詳しければポンと言葉が出てくるのになぁと思う。わかりやすく言えばバチバチで(わかりやすいのか?ニュアンスで感じ取ってほしい…)、わかりにくく言えばナイフみたいだ。pinkはCRYAMYの中でもかなり好き。それぞれの音が気づかないところでパキッと合致しているイメージ。この例えも驚くほどわかりづらいが…。歌詞もセンス抜群。あとタカハシさんのコーラスも良い。私はタカハシさんのコーラスがマジで好きだ。声も綺麗だし。そのあとの雨からのdelayの流れは(安っぽい言葉だけど)さすがに感動してしまった…。delayは、カワノさんが物臭を捧げたダンくんに最後に聴かせた曲だったらしい。ダンくんの反応はイマイチだったみたいだけど、私はすごく好きな曲だ。#3には必ず入れてほしい。必ず。この曲は歌詞を見ながら聴きたい。

 

カワノさんはMCで「今すごく幸せな人はもっと幸せになるように、今すごく不幸な人は少しでも幸せになれるように、不幸でも幸せでもない人はすごく幸せになれるようにする」と、「俺がなんとかするから」と、「俺は男だから言う、俺に任せろ」と、頼もしいセリフを何度も繰り返していた。「今年中に#3を出す」とも宣言していて、その姿はなかなかカッコいい男だった。プラネタリウムでカワノさんがステージの柵を超えてきたとき、「こんな地下のライブハウスで天井を触りながら夜空を歌うのか」と思った。だけど、人工的な星の光は、曇っていたって天井があったって例え地下だってそれを綺麗に作り出せる。CRYAMYで初めて優しい曲を聴いた気がした。優しい曲だ。言わせてもらうが、わたしたちだって、あの場にいたみんな、CRYAMYの幸せを願っている。わたしたちがなんとかするから幸せになってほしい。でも、カワノさんは最初のほうのMCで、ソールドアウトした初のワンマンライブに「普通のバンドは"俺たちはこれじゃ満足しないから~"とか言うのかもしれないけど、俺は満足です」と心底安心したような笑顔で言っていたので、なんか幸せそうでよかった。

 

この日のディスタンスを、私は一生忘れないし、忘れたくない。「死ななくてよかった~…これからみんなになんでもしてあげられる」と、カワノさんは掠れた声でそう言った。またステージから体を乗り出して客席に手を伸ばすカワノさん(4/20のときもそうだったが、この日も幾度となくこういうシーンがあった)、握ったその手はビックリするほど冷たかったけど、強く力を込めて握り返してくれた。「あなたを思って枯らす涙は戻らないけどあなたも戻らないから、ってさ」サビの歌詞はたったこれだけだけど、これだけで十分である。どうとでも解釈できるし、誰にでも伝わる。私はこの曲でもう感情がぐちゃぐちゃになって、白状しますと、次から次へと出てくる涙を(後ろからの圧のせいもあり)目の前にいたお兄さんの背中で拭いた。ごめんなさい。たぶん白いTシャツに化粧ついてます。本当にすみませんでした。次のcrybabyの「自分の心はゴミみたいに思えた」という歌詞は、序盤の普通より私はまた一段と大きな声で叫び散らかしてしまったんだけど、隣からの声も後ろからの声もカワノさんの声も全部フルスロットで聴こえたのでよかった。この辺りからはたぶんもう、後方はわからないけど私がいた前の方はめちゃくちゃで、くちゃくちゃで、壊れた自分の心もゴミ"みたい"なだけであって、でもそれはその後のtenで「そんなんでもいいでしょう」と肯定された気がした。そんなんでいいのだろうか。私はずっと、大人になって立派になって賢くなって優しくなりたかったんだけど、全然なれてないんだけど、こんな私をおばあちゃんは認めてくれるのかな。舌癌になって食べられなくなって喋れなくなって笑えなくなって、それでも私をちゃんと覚えていてくれる、部屋の壁に私の写真を貼っていてくれる、おばあちゃんに、私は一ミリも立派な姿を見せてあげられなかった。「そんなんでもいい」とはやっぱり思えないけど、化粧をした綺麗な寝顔のおばあちゃんを前に、孫の私が娘であるお母さんよりも泣いてしまったことくらいは、「そんなんでもいい」と思っていいかな。涙を堪えるのは得意だと思っていたけど、私は案外泣き虫だったみたいだ。まあ考えてみればライブも私は泣きじゃくりすぎた。強くなりたいね。

 

二度目のtenが本編最後となり、アンコールではテリトリアル、そしてダブルアンコールまで応えてくれて、カワノさんがエレキギターでtenを弾き語りした。さすがに普段の倍以上長い間やっていたのでカワノさんの声も掠れていたけど、その掠れた高音は飾らない綺麗さがあった。一度目のアンコールのあとかな、最後にオオモリさんとレイさんが大きな声で「ありがとう」と言ってくれたのが嬉しかった。こちらこそありがとうございます。#3もフルアルバムもいつか出るかもしれない"名盤"も、ずっと楽しみに待っている。