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好みの話じゃなくて、好きの話

7/20(sat) 下北沢club251 CRYAMYを見た

 

多摩川とその河川敷を横断する、東急東横線多摩川駅新丸子駅間。多摩川駅を出発すると、電車は連結された車体を大きく右に曲げながら茂みのあいだを抜けて、濁った多摩川の上に出る。このときに感じる重力が好きだ。高校生の頃、この河川敷で花火をしたことがある。目の前の手持ち花火が放つ光の明るさはもう忘れてしまったけど、夜にそびえる高層ビルの明かりは確かに綺麗だった。真っ暗な車窓から僅かに見える川の水が反射しているのは、何の明かりなのかな。それが月だったなら、結構ロマンチックかもしれない。でも今日は生憎の曇天。せめて、人工でいいから、プラネタリウムのような美しい光を反射してくれないかな。ライブのあとはイヤホンをつけずに好きな音楽を脳内再生することが多い。このときはちょうど、それがプラネタリウムだった。

 

高校生の頃のことを思い出してしまったのは、この日の昼間に珍しく高校野球を見たせいだろう。三つ下の従兄弟にとって最後の夏らしく、家で中継が流れていた。両親の必死の応援もむなしくベスト8敗退。まあ、仕方がない。お父さんとお母さんはそのままベイスターズの応援に横浜スタジアムに行き、私は少しダラダラしてから下北沢へ。club251、初めて行くライブハウスである。ベースメントバーや下北沢スリーに行くときに通る道にあって、外見は何度も見たことがあるけど入るのは初めてだった。

18時過ぎに着くと、ライブハウスの前に人がたくさんいた。CRYAMYのワンマンライブしかり、PKshampooのリリースツアー新代田フィーバーしかり、最近はこういうシチュエーションが多い。整理番号を呼ばれて中に入ると、前から真ん中くらいまではもう人で埋まっていた。私の整理番号がまあまあ遅かったせいもあるけど、この日の対バンが私でもわかるくらい豪華だったからなんだろうと思う。CRYAMY、Suspended 4th、w.o.d.、No buses。このバンド名の並びだけ威圧感がすごい。普段は目当てのバンド以外は見ないことが多いけど、一番手のCRYAMYを見たら後ろのほうでお酒でも飲みながら後の3バンドをゆっくり楽しもうと思っていた。

 

開演の時間は10分くらい押したのかな。BGMが鳴りやんで(そういえば、最近授業でBGM(音楽)と心の関係についての論文を読んだ。内容というよりは分析の方法とかを勉強するものだったから研究の結果は「だろうな」という感じで大した発見も面白みもなかったし、そもそも研究自体にムラがありすぎて「これどうなん?」という感じだったけど、音楽で人の気分が上がったり心を落ち着かせたりできるのはまあまあ確からしい)、オオモリさんを筆頭にCRYAMYの四人が出てくる。フジタレイさんの金髪が、照明に照らされてすごく綺麗に見えた。四人が出揃うと、いつもの如く耳をつんざくようなノイズが鳴ったんだけど、そこから一向に進まない。カワノさんのギターがトラブっていたみたいだった。スタッフさんの小走りが横目に見えて、こっちまで少し緊張してしまう。そのあとちゃんと音が出て無事一曲目のtenが始まったので安心、途中のMCでカワノさんが「ギター壊れてなくてよかった」と笑っていたのもなんだか微笑ましく思えてしまった。

最近、ライブでの普通の出だしがめちゃくちゃカッコよくて困ってしまう。この日もそうだったんだけど、最初のカワノさんのギターの前になんかカッコいい演奏があって(説明が下手で恥ずかしい。伝わってくれ)、それがもう本当に、すごく良い。そのあとにくるいつものカワノさんのギターがスッと落ちてきて、ピー!という音と同時に一気に突き抜ける感じ、たまらない。カッコいい。カッコよすぎて困る。そのままcrybabyで押し切ったのは力業感があったけど、ステージから客席に倒れ込むカワノさんに引き寄せられるように前方の密度と拳が一気に上がったのは、なんだか気持ちがよかった。この日のCRYAMYはパワーがあるように見えた。私はもう、ただただ圧倒されるばかりだった。

MCを挟んでピンク、物臭。PKshampooのライブで京都線を聴いたときにも思ったけど、物臭とか、月面旅行とか、プラネタリウムとか、そこまでテンポが速くなくても右手を挙げたくなるような曲は、本当に良い曲なんだなぁと思う。カワノさんは「あなたが言うようなそれなりもないよ特別もないし」とマイクに向かって吐き出していた。見もしない知らない"誰か"が言うような"劇的"や"特別"より、いま目の前にいる"あなた"が言う"それなり"を"誰か"にも"あなた"にも歌おうとするサビの歌詞、すごく好き。物臭の歌詞は最強だ…。それなりにも特別にもなれなかった歌詞に綺麗なメロディーがくっついた、この夏一番のヘビロテ曲。結局夏なんて、私にとっては長い長い夏休みがある分惰性に拍車がかかるだけの季節だ。夕方に起きて朝に寝る生活が目に見えている。そんな夏の中で、最大の活動時間となるであろう夜、暑いのに毛布を被る夜、蒸し暑いバイト帰りの夜、お酒を飲んでフラフラのまま家に辿り着く夜、この曲があれば、少しはジメっと纏わりつく空気も美化できるんじゃないかな。少なくとも私はそうだ。底辺大学生の、ここに書けるようなことなんて何一つないダメダメな生活も、そんな夏も、CRYAMYが、物臭が、少しだけ、拾ってくれると思っている。

「俺みたいにならないように幸せになってくださいって言ってたけど、俺みたいに幸せになってくださいって言えるように、幸せになりたい」と言ったカワノさんのMCに、少し胸が熱くなった。そのあと「来るだろうな」と思っていたらやっぱりきた、月面旅行とプラネタリウム。本当に良い曲だ、敵わん…。そういえば、この前の新代田フィーバーでカワノさんは「月になる」と言っていたけど、確かに、CRYAMYは海というよりは月っぽい。じゃあ私は何になろうか。いや、何にもなれないな、私は私か。「笑って息してたらよかったのに」のあとのサビ前で一拍置くところがたまらなく好き。ここまでの歌詞があまりにも赤裸々で苦しい気持ちになるから、一瞬だけ下を向く時間になる。私が死んだらCRYAMYも死ぬかな。少なくとも私の中のCRYAMYは死ぬかな。じゃあやっぱり、死にたくないな。

 

この日のCRYAMYはなんだかすごくカッコよかった。終わったあと、前日も飲みにいったことを考慮して結局控えめにウーロン茶を飲みながらCRYAMYのあとのSuspended4thを見ていたけど、CRYAMYがカッコよすぎて満足したので途中で帰った。あと人がたくさんいたので居心地が悪かった。あとCRYAMYよりもSuspended4thで盛り上がっているお客さんを見るのが嫌だった。

最寄り駅に着いて、やっぱりお酒が飲みたくなってしまったので缶チューハイを買って帰った。これを書きながら飲んでいたけど、どうしても飲み足りなくて、もう一度買いに出る。今月はお金がないというのに。最近の東京は曇り空が続いているけど、次晴れるのはいつだろう。晴れていなくても星空が浮かぶプラネタリウムは、やっぱり優しい曲だ。